お洒落レストラン雑誌『東京カレンダー』で面白い記事があったのでのせちゃうわ!
女優とディナー:ついに来た前田敦子とのガチンコデート実況中継!
作家・水野敬也の名だたる女優とリアルにデートする本企画。
今回のお相手は女優・前田敦子さん。本日、TBS系で24:10から放送がスタートする『毒島ゆり子のせきらら日記』に主演するなど、ノリにのっている彼女と水野氏のデートはどんな展開になるのか?
1話読み切りでお届けする爆笑ストーリー、面白いので全部のせちゃえ!
(水野)今の私の率直な気持ちを申し上げますと
「もう美女と飯は食いたくない」
です。
――想像してみてください。毎月毎月、自分の魅力偏差値を遥かに超えた美女たちを喜ばせる会食を企画しなければならない苦しみを。
毎回吐くくらいテンパりながら下準備と店選びに丸四日かけ、当日は朝からまったく仕事が手につかず、いざ食事が始まったら極度の緊張の中、一言一言をひねるように絞り出し(もちろんご飯の味はほぼ味わえません)
会食が終わって逃げるように帰宅した後も、会話の失敗が5秒おきに脳内にフラッシュバックして「あーっ!」と叫びながら枕に顔をうずめ足をバタバタする――
そんな苦しみの日々を乗り越えられた理由はただ一つ、誰にも真似できない苦行を続け「苦行に意味はない」と悟りを開いたブッダのように、
私もこのまま連載を続けていけば「美女に意味はない」と思える境地に至り、仮にアリアナ・グランデから逆ナンされても、
「俺、アリアナよりも、アジアンだから」と隅田似の女性の肩を抱くことのできる日がやってくる
と信じていたからです。
しかし、ブッダは苦行を6年間続けましたが、私は6回目の連載を迎える前に廃人になり戦線離脱する可能性が出てきました。なぜなら、担当編集Hが電話越しにこう言ったからです。
「次の会食のお相手は前田敦子さんに決まりました!」
前田敦子――。ここで改めて説明するまでもなく、過去に国民的アイドルのセンターを務め、今や女優として確固たる地位を築いた、もう遥か彼方の存在であり、
モノマネ芸人キンタローとの会食でもそこそこ緊張するであろう私にとって、もはや「緊張死(緊張しすぎた結果、至る死)」は免れないと確信しました。
しかし、この苦しみを乗り超えた向こうにこそ、ブッダの至った悟りの境地があると自分を叱咤激励し、
前田敦子に関する情報を集めるべく大宅文庫(過去に発売されたすべての雑誌が読める図書館)のパソコンで検索したところ泡を吹いて倒れそうになっている自分がいました。
前田敦子の検索結果は1085件だったのです。
(だ、ダメだ。これまで登場した美女たちと比べてもケタ違いに多い――)
これまでの会食は、美女の過去の雑誌掲載記事を穴があくまで読み込み、その情報を頼りに計画を立ててきたわけですが、
私の速読力を持ってしても、前田敦子との会食の期日までに1000冊以上の雑誌すべてに目を通すことは不可能でした。
呆然自失となった私は大宅文庫を出、入口の階段に腰を下ろして空を見上げました。澄み切った青い空には春の日の雲が気持ちよさそうに浮かんでいました。
その雲を眺めながら私は思いました。
(田舎、帰ろかな)
ナチュラルボーン・カッぺの私が前田敦子を喜ばせるような会食を企画できるはずがないのです。
私は大きく息を吐き、携帯電話を取り出しました。そして、担当編集Hに休載したいという旨を伝えようとした、その瞬間でした。
(そ、そうか――)
私の脳天に、天啓とも呼べる閃きが生まれたのです。そして私は取り出した携帯電話を、担当編集ではなく、同郷の山本くんにつなげました。そして山本くんに向かってこう言ったのです。
「俺、今度、前田敦子と会食することになったがや」
すると電話の向こうで山本くんが叫びました。
「お前、すげーが! すげーことになっとるがや!」
「それで君の知恵を借りたいんだけども、どういう会食にしたら前田敦子を盛り上げられると思う?」
すると山本くんは即答しました。
「前田敦子だったら『フライングゲット』って曲が有名だから、フライとナゲットでええがや!」
天下の前田敦子との会食にファーストフードを提案してきた山本くんの豪胆さに衝撃を受けましたが、このときすでに私は光明を見出していました。
経営の神様・松下幸之助がこんな言葉を残しています。
「一人で知恵出そうとしたらあかん。『衆知』を集めるんや」
そう――前田敦子ほどの国民的有名人であれば、過去の雑誌記事に頼らずとも、周囲の人に聞けばどれだけでもアドバイスがもらえるのです!
そこで私は早速、「前田敦子が喜ぶ会食は何か」という質問をありとあらゆる人たちに投げかけ、衆知を集め始めました。その結果、次のような回答を得ることに成功したのです!
営業職I「前田敦子はアイドル時代からずっと王道で来てる人だから、王道っぽいものが良いんじゃないですかね。本マグロとか」
プログラマーM「前田敦子はテレビでお肉をたくさん食べるとか言ってましたから、お肉の食べ放題で良いと思います。モーパラ的な」
デザイナーO「最近見た映画『イニシエーション・ラブ』の中で前田敦子は『ホテルから夜景が見える会食なんて最高』みたいな台詞がありました。あ、でもあれは映画の台詞だから本人はどう思っているか分かりませんね」
アシスタントS「そういえば、僕の地元に『あっちゃん』って名前の居酒屋があります」
――集まってきたのは予想以上に適当な意見でしたが、これらの中に、まさに泥沼に咲く蓮の花のような素晴らしい意見があったのです。
それは、私のアシスタントOの考えでした。
アシスタントO「前田敦子は現在、女優としての地位を確立していますが、これまでずっとアイドルとして大勢の仲間に囲まれて仕事をしてきたので、今、とてつもない孤独を感じているはずです。つまり、そんな彼女の孤独を埋めるような会食を企画すれば、彼女は間違いなく水野さんに惚れることになると思います」
そのときOの両目は、これまで見たことのないような輝きに満ちていました。これまで5年間私の元で修業を続け、1冊も本を出せていない男の目とは思えませんでした。
私はOにたずねました。
「だ、だがOよ。どんな会食を企画すれば、彼女の孤独を埋められるというんだ?」
すると、Oはニヤリと笑って言いました。「簡単なことですよ」
Oは続けました。
「まず、様々な具材の入った料理を用意してください。できれば48種類の具材が入った料理が望ましい。
それを前田敦子に食べてもらいます。そしてそのあと、その具材の中の一品を、できるだけ調理していない状態で彼女に差し出すのです。
そして、前田敦子にこう言ってください。『これが、あなたです!』。そのとき――前田敦子は気づくでしょう。
色々な具材が混ぜ合わさった料理よりも、その中の一つの食材を味わった方が、よりはっきりと素材の良さが分かるのだと。
そしてそのとき彼女の孤独は癒され、あとは前田敦子の肩をそっと抱けば『FIN』です!」
この話を聞いたとき――この男がどうして私のアシスタントに留まっているのか疑問に思い、むしろ私が彼のアシスタントになるべきなのではないかと思いました。
それほどまでにOの計画は完璧だったのです。
長くなったので、つづきは次回「下準備は万全、ついに前田敦子と対面する!」へ
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敦子とのガチデート実況中継!
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